「ママムーチョ」で光る杉田あきひろ

「おかあさんといっしょ」の「ママムーチョ」という曲を久々にじっくり見た。
団地らしき家のダイニングルームで母親に叱られた娘(つのだりょうこ)が泣いていると、どこからか湧いて出た謎のメキシカンコーラス3人組(杉田あきひろ、佐藤弘道、タリキヨコ)がにこやかに唄うという突飛なクリップである。
「おかあさんといっしょ」の歌のコーナーは通常歌のおにいさん、おねえさん二人が中心だが、時に体操のおにいさんやおねえさんも登場して唄い踊るクリップも放送される。華やかな衣装だったり、ビックリするような派手なかぶりものだったり、ストーリー性を持たせていたりと、あたかも小さなミュージカルの趣で楽しい。

さて、「ママムーチョ」だが、高い位置で二つのお団子に結ったカジュアルな服装のつのだがメインボーカルであり、物語の主役である。しかし、圧倒的に目立つのは謎のメキシカンコーラス隊であろう。唐突な登場、楽器を奏でながらこってりしたメイクをほどこした顔に濃厚な笑顔を浮かべ、思い入れたっぷりに唄い踊る3人。

中でも杉田の表情が素晴らしい。
番組のオープニングでは「やあ!みんな元気ぃ?」などと明るく爽やかに挨拶している好青年だが、この曲ではまるで別人。目張りをくっきり入れた目元は油をたたえたようにギラギラと光り、まるで“谷村新司の真似をしているモノマネ芸人”のごとき貼りついたような笑顔を浮かべた杉田は、まるでこの役こそが天職と言わんばかりにいきいきと輝いて見える。

おそらく杉田より小柄な佐藤とタリとの身長差を考えた配置だと思うが、杉田はこの二人より一歩後ろで踊っている。当然、フロントにはメインボーカルのつのだがいる。つまり、杉田は最後列に位置しているのである。
舞台で一番目立つのは中央でスポットライトを浴びている主役である。では、その次に目立つポイントは主役の隣やすぐ後ろかというと、案外そうでもなかったりする。舞台の端あるいは後方のスポットライトから離れた位置で小さな動きをしてみせることでかえって目立ち、そのシーンを喰ってしまうこともある。
最後列に立つ杉田は、前で丁寧に踊る佐藤やタリに比べ少々おおざっぱにも見える動きだが、その微妙なずれ加減が絶妙である。ついそちらに視線がいってしまうではないか。カメラに絡みつくような目つきも含め、明らかに目立っている。

杉田の朗らかな表情や優しげな声音はつのだと二人でしっとりと唄う歌にもマッチしているのだろうが、ギラギラと目を光らせのびのびと動き回る「ママムーチョ」「一週間」「たこやきなんぼマンボ」「クシカツはいっぽん」などのミュージカル風クリップこそ彼の本領であろう。今後も彼の持ち味を生かす痛快なミュージカル風クリップが続々と登場することを祈る。【み】

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