1999年「郵便貯金 夏のこども劇場」見聞記

7月20日火曜日。海の日。薄曇り時々雨。
東京・三軒茶屋の昭和女子大学人見記念講堂。
昨年と同じ会場からスタートした「おかあさんといっしょ」夏のイベント。

今年は「夏のこども劇場」と銘打ち、現役メンバーからは「どーなっつ」4匹衆のみ、速水けんたろう(先代の歌のお兄さん)、松野ちか(先代の体操のお姉さん)、山野さと子(「ドラえもん」の主題歌でおなじみの歌手)がメインを務め、加えて、乳幼児に熱烈なる支持を受けるETVの人気番組「つくってあそぼ」のわくわくさん(久保田雅人)とぬいぐるみのゴロリが全国を回る。
午後4時開演の今回の座席は1階上手かみて側後方。人見記念講堂は割と小さなホール(わくわくさんによると、この日の観客数は2000人)なので、ステージはよく見える。しかしながら、またしてもオペラグラスと眼鏡を持っていくのを忘れ、開演前に地団駄踏むわたし。

今までのファミリーコンサートや夏冬のイベントと同様、1ベル代わりの「排泄は済ませたか」「座席はわかるか」といった歌詞の歌、開演直前の「待たせたがいよいよ開始である」といった歌詞の「どーなっつ」4匹衆による歌が流れる。
開演にさきがけ、恒例のスポンサー・郵便貯金(ゆうちょ)のリスのぬいぐるみ2匹による「郵便局に行ってみよう」というトークがあり、ぬいぐるみには目がない小さな観客たちを喜ばせる。

そして、いよいよ開演である。
「ドレミファどーなっつ!」4匹衆が登場し、おなじみのテーマソングに合わせ、おなじみの踊りを披露。番組内や春のファミリーコンサートでは粗雑な扱いを受けているように見える4匹も、今日ばかりはメインの立場。
…と思ったら、春のファミリーコンサートと同じように、テーマソングを唄い終わるなり、「おにいさーん、おねえさーん」と叫んで、あっというまに下手(しもて)へ退場。なんとも気の毒なことである。

さて、どーなっつ4匹衆の呼びかけに「はーい!」と応え、ステージに飛び出してきたけんたろうお兄さんとあゆみお姉さん……ではなくて、もちろん、登場したのは速水けんたろうと山野さと子である。しかし、思わず先代コンビが復活したのではないかと錯覚してしまったのは、私の先代への深い憧憬のせいだけではなく、山野の声質が茂森あゆみ(先代の歌のお姉さん)に似ているように聞こえたからだろう。
なにしろ後ろのほうの席(しかも眼鏡なし)ゆえ、ステージ上の出演者の顔がハッキリ見えないのである。小柄な山野が速水と共にステージ中央に走り出てきた時は、ついその姿に茂森の幻を重ねてしまったのだった。

オープニングは、おなじみ「虹のむこうに」。振付は先代コンビと同じ。曲の途中で虹色の新体操のリボンを2本翻しながら、松野が登場。私が見るイベントでは、アイテムを持って登場すると十中八九取り落とす松野、思わず「大丈夫か、松野!」と心の中で叫んだ途端、リボンを1本取りそこなう。これはもうお約束みたいなもので、ミスとはいえ、「それでよしっ!」と再び心の中で叫んだのだった。

続いて「アイアイ」、「パンダうさぎコアラ」、「てをたたこ」という“おなじみソング”のメドレー。
山野の声は張りがあり、キーンと脳天を直撃する。茂森と同系統の声質なので、速水とのデュエットを聞いていても違和感があまりない。一方、速水はハードスケジュールからの疲れなのか、ツアー初日だからか、声の出が今いち。元気いっぱいの山野の声ばかりが響く。

「お兄さん、今年、3のつく歌が大ヒットしましたよねえ?」と山野。
「え、そうだったっけ?」トボける速水に、「あ、わたし知ってますよお」と松野。
「なんだったっけなあ、わからないなあ。あ、ちょっと白々しい?」。
先代の時代に毎日スタジオコーナーの冒頭で聞かされていた速水独特の間のトーク。ああ、ここに佐藤弘道(体操のお兄さん)がいれば。「やだなぁ、けんたろうお兄さん、白々しいですよう」とでもツッコミを入れてくれただろうに。「あ、やっぱりぃ?」と速水、その傍らには「くっくっくっ」と素の笑いをもらす茂森が…。

いや、過去を懐かしんでいる場合ではなかった。
当然、このトークの後に登場するのは「だんご3兄弟」である。

「だんご3兄弟」には2種類の振付がある。
3月に幕張メッセで開催されたETV40周年記念イベントで披露され、その後、「ポップジャム」(NHK総合)でも唄われた「速水・茂森・松野」バージョンと、5月の春のファミリーコンサートで初披露され、その後、番組にも登場した「杉田あきひろ(歌のお兄さん)・つのだりょうこ(歌のお姉さん)・佐藤・タリキヨコ(体操のお姉さん)バージョン」である。

今日は佐藤がいないわけだし、旧バージョンのメンバーが2人出演しているということで、旧バージョン贔屓の私の期待は否が応でも高まるというものである。
イントロが流れ…、ああっ、やはり旧バージョンだ!

私の席からはステージ上の出演者の表情は見えないが、きっと松野は真面目くさった顔で踊っているに違いない。いつもニコニコしている松野が無表情に踊るのが、このバージョンの大きな見どころの1つである。
ただ、私が旧バージョンで一番好きな「速水と松野がタンゴ風に左右に移動」の箇所と、二番目に好きな「松野が両手を上げて満月に扮する」箇所の振付が変わっていたのは誠に残念であった。

最後の繰り返しのフレーズのところでは、案の定、会場は大合唱。和菓子屋に暴動でも起きたかと錯覚するような騒ぎである。そういえば、ロビーでは、世田谷郵便局による「だんご3兄弟絵葉書」の販売が行われていたし、だんごパワーいまだ健在、である。

さて、「だんご3兄弟」が終わると、お待ちかねの「つくってあそぼ」のコーナーに突入。といっても、あいにく私は全く待ちかねておらず、おなじみのテーマソングを嬉しそうに合唱する会場の小さな人たちを、しんみりとした気持ちで見つめるばかりである。
テーマソングと共に、わくわくさん登場。イラスト、工作、独特な喋り。最初は盛り上がっていた会場も、そのうち、騒然としてくる。そりゃそうだろう。ステージの上で工作してもらっても、後ろの席からは何がなにやらさっぱり見えないのである。私のまわりの席でも、ぐったりする小さな人あり、暴れだす小さな人あり、そろそろ収拾がつかなくなってきた。
そこに登場するのがゴロリである。「みんなー、一緒に『せえの』で『ゴロリくーん』って呼んでね、1回だけだよ」。「1回だけ」という台詞から、わくわくさんがイベント慣れしているのがよく伝わってくる。
わくわくさんの呼びかけに応え、会場は一斉に「ゴロリくーん」と叫び、ゴロリ登場。
ひとしきり、2人(1人と1頭か)の古くさい感覚のトークが繰り広げられ、そして、その後…、いや、その後のことは、申し訳ないがここに書けないのであった。というのも、「つくってあそぼ」が苦手な私、あまりにも辛くなってしまい、いったんロビーに避難していたのである。いや、まったく面目ない。

「つくってあそぼ」コーナーに、速水、山野、松野が参入。
ビニール袋を貼り合わせて作った巨大な風船を2個使って、夏冬イベント恒例の「風船送りゲーム」である。これまでのイベントでは、佐藤と松野が2人でこのコーナーを担当、会場を真ん中で上手と下手に分けて、それぞれ佐藤チーム、松野チームとしていたのだが、今日は、速水+山野チームと「つくってあそぼ」チームに分かれ、松野は審判役。
ちなみに、今日の結果は、僅差で「つくってあそぼ」チーム(下手側)の勝利であった。「つくってあそぼ」チームは、(やはり1回だけ)「万歳」。そして、惜しくも負けてしまった速水+山野チームには、わくわくさん曰く「恒例のバンザイなしよ」。「バンザイなしよを知ってるお母さーん、絶対30代以上ですよ!」とつまらぬ一言を残して去るわくわくさんなのだった。

さて、小さい人たちお待ちかねの「ドレミファどーなっつ!」のコーナー。
あいもかわらず、「こどもダンスコンテスト」なる催し物のネタ。れっしーが「王子時代に宮殿でワルツを踊った」という思い出話を披露した後、みどが「バレエにしましょう。『プードルの湖』」、それに応えて3匹が「やだやだやだ」というおなじみのストーリー展開。みど&ふぁどの「いつもいっしょに」、空男の「おもいでポケット」、そして全員で「やだやだツイスト」を1コーラス唄い踊って、「じゃあ、また後でねー!」。

そして懐かしや、「トライ!トライ!トライ!」コーナー。今日はリボンである。
見慣れたコスチュームで「お久しぶりです!」という松野に、「うんうん、久しぶりだったねえ、寂しかったよう」と心の中で応える私。
いつのまにやら選抜されている4歳の少年と1歳の娘さんがステージに登場。1歳の娘さんのつきそいは、珍しく父親である。男性の「トライ!トライ!トライ!」を見るのは初めてだ。恒例の曲間の松野のリボンさばきも見事にキマり、このコーナーは何事もなく無事終了。

「けんたろうお兄さん、『おかあさんといっしょ』ご苦労さまでした」「ありがとう、あっというまでした」といった山野と速水のトークで始まった歌のコーナーパート2。

「けんたろうお兄さんは、月の歌を作詞作曲してらっしゃるんですって?」「はい、作りました」。
というわけで、まずは99年2月の月の歌「あつまれ笑顔」。振付は先代と同じである。声質が茂森似の山野、歌には違和感ないものの、いかんせんジャンプ力不足である。鮮やかな“茂森ジャンプ”がいまだ脳裏にクッキリ焼きついている身には、山野のジャンプはあまりに寂しい。いや、山野の出来が悪いわけでは決してない。茂森のジャンプが高すぎただけだ。

松野も参加して「公園にいきましょう」。これも振付はほぼ同じ。しかし、「『おいでおいで』ポーズから両手をあげて横に振る」という振付がなくなっており、見ていて歯がゆい思いをした。「おいで」をする時の松野のピンと伸びた長い脚が好きだったのだが…。

虫歯に扮した「どーなっつ!」が登場し、景気よく「虫歯建設株式会社」。さらに「イカイカイルカ」。いずれも先代と同じ振付である。「イカイカイルカ」のかけ声は茂森ならではのものかと思っていたが、山野大健闘。遠くから見ている限り、山野には誠に申し訳ないが、「ああ、速水と茂森だなあ」と自分を騙しながら見るという邪道な楽しみ方ができる程である。

さて、ここで、今日のメインイベント。

毎度おなじみ「さあ、みんなが楽しみにしている体操の時間だよ。みんな、立ってごらん」という速水の台詞。えっ、どうするんだ、速水。誰が体操をリードするんだよ。そりゃもちろん、わくわくさんじゃないだろうけどさ。佐藤はいないんだぞ。昔、佐藤が声が出なかった日のように、速水がリードしてくれるんじゃなかろうな?
などと心の中で呟いたものの、今回は「体操のお姉さん」が出演しているんである。当然、ここは……。期待に胸がときめく。

鮮やかな赤をベースにしたコスチュームを着用した松野登場!

そうだよな、赤だよ赤!
「おかあさんといっしょ」イベントの主役の色だぜ!(と勝手にみやしたは思い込んでいる)
体操は、もちろん「あ・い・うー」だ。佐藤のコールを踏襲しつつも、なんとなくぎごちない。が、そこがまた可愛い。基本的にくねくねとしなやかな佐藤の動きに比べ、松野の動きは少々堅い感じ。「夏のこども劇場」初日ということもあって、緊張していたのかもしれない。
「両手を頭の上で、ピタッ」から始まる後半のしりとりになっている歌詞の部分の動きは、長い手足を十二分に生かし、佐藤を凌駕するほどの美しさである。

そして、体操の最後の部分で、「どーなっつ」4匹衆、わくわく、ゴロリ、山野、そして速水が両手をヒラヒラさせながらステージに登場する。
鳴呼!これが見たかったんだよ、私は!
長身の速水が長い手を持て余すようにヒラヒラさせつつ、体操の輪に突入する。
こののんびりとしたダイナミズム!
先代贔屓の私が4月に失ってしまった大切な宝物。
茂森と佐藤がいないのが寂しいが、いや、あの姿をもう一度見られただけで大満足である。

そして、当然のごとく、エンディングは「ドレミファ列車」。
スプーのラッパがなければ「スプラッピスプラッパ」への流れはムリだよなあ。だからといって、空男に「今日はいいものを借りてきただよ」なんつって、スプーのラッパを吹かれても、なんだか哀しいしね。
ぎこちなく「ドレミファ列車」を踊るわくわくさんの姿に、ふとしんすけさん(古今亭志ん輔)を思いだし、寂寥感に襲われる私。4月以来、失ったものは多い。

そして、「そろそろ終点!」とキュートに叫んだのは松野である。
この台詞は、佐藤のようにステージ中央で言わせてやりたかったが、あいにく真ん中に立っていたのは速水であった。

1時間のステージはこれにて終了。
「だんご旧バージョン」「トライ!トライ!トライ!」「松野のあ・い・うー」「速水のひらひら」の4点が、今回の収穫である。また、速水と山野のデュエットが先代コンビを彷彿とさせ、ひたすらに懐かしい思いでいっぱいの「夏のこども劇場」であった。
山野の歌唱は素晴らしかったのだが、いつか速水・茂森コンビが復活することを、そしてその2人の後ろで佐藤と松野がキレのいいダンスを披露してくれる日が来ることを祈りつつ、会場を後にしたのだった。【み】

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