「デ・ポン」の魔力

「おかあさんといっしょ」に4月5日から登場した新コーナー「デ・ポン」。

3月まで放送されていた松野ちかの「トライ!トライ!トライ!」や、その前に放送されていた馮智英の「ハイ!ポーズ」の流れをくむコーナーである。
学生時代に新体操の選手だった松野の「トライ!」は、新体操のアイテム(リボンやリングなど)を使った“新体操風体操”だったし、中国人の血をひく馮智英の「ハイ!ポーズ」は“太極挙風体操”であった。

さて、「デ・ポン」だが、これはなんと唐突にも、“バリダンス風体操”なのである。

「デ・ポン」は、体操のおねえさん・タリキヨコの顔面のアップから始まる。クッキリとした濃い顔だちのエスニック風美人だ。
しゃらしゃらと鳴り響く鈴の音。両手を顔の前にかざし10本の指をひらひらと動かす。

本物のバリダンスならきっと長い長い爪をひらひらとさせるのだろうが、幼児が視聴対象のこの番組では、さすがに長い爪はNGだろう。爪切りされるのが好きなチビは少ない。「おかあさんといっしょ」でも、「爪を切るとさっぱりして気持ちがいい」と唄いあげる躾ソング「つめ・かみ・みみたろう」という曲まで流しているわけだしね。もし、「デ・ポン」で、バリダンス式に長い爪でおねえさんが踊っていたら、番組を見たコドモが「爪切るのやだ〜、デポンみたいにするぅ〜〜」と愚図るに違いない。「デ・ポン」の後に「つめ・かみ・みみたろう」を流して、とりあえずは爪切りに成功したとて、翌日も翌々日も「デ・ポン」はオンエアされるんである。だからといって、毎日「つめ・かみ・みみたろう」をオンエアするわけにもいくまい。ああ、マッチポンプ。
というわけで、タリの爪は短く切りそろえてあり、つけ爪もつけていないのであった。

さて、カメラが引いていくと、タリはバリダンス風の色鮮やかな衣装を身にまとっている。
くねくねとしたバリダンス風の振付。途中、「はい! デ・ポン!」とかけ声をかけながら、肘を張り、両手の人指し指をピンと立てたポーズで、ドリカムの吉田美和のように首だけをくいっと動かす。
こりゃ難しいって。
この首のひねりが、“バリダンス風”の振付のキモになっているのだろうが、少なくとも、これ、親は真似できんだろう。元々首が動く親でない限り、練習してもなかなか難しいと思うぞ。今日まで登場したコドモも誰一人として首を動かせる者はいなかったが、今後、「デ・ポン」が浸透していくにつれ、器用に首をひねる子も出てくるのだろう。子供はまだ体が柔らかいもんなあ。

濃い顔だちのタリが大きな瞳でカメラを見据えながら、不思議なポーズで「はい! デ・ポン!」と何度もかけ声をかける。
バックに流れるバリ風のメロディ。見つめていると、タリの瞳の中にふらふらと吸い込まれ、いつのまにかまだ見ぬバリ島にトリップしている自分がいる。まわりを取り囲むケチャの集団。
と、思わずそんな妄想すら浮かんでしまうひととき、それが「デ・ポン」なのである。

松野の熱烈なるファンである私にとって、体操のおねえさんの交代は誠に悲しい出来事であったが、「デ・ポン」はいいぞ、いやホントに。これで、「トライ!」と「デ・ポン」の2本だてだったらもう文句なしなんだが。

ところで、そもそも「デ・ポン」とはなんぞや。
バリダンスをイメージして作られた体操なので、おそらくインドネシア語であろうと目星をつけ、ネット上を必死に検索してはみたものの、どうしてもわからない。

というわけで、NHKに電話をしてみた。
すると、なんたることだ、「特に意味はありません」だと。
ということは、この体操のために作られた造語で?
そうです」……そりゃわからんはずだよ。検索できないはずだ。

リニューアルしたばかりのせいか、なにかこうガチャガチャと落ち着きのない印象のある「おかあさんといっしょ」の番組構成だが、その中で、ゆったりとした独自の世界を築いているこのコーナー。
テレビから吹いてくるバリの風を頬に受けつつ、貴方もさあご一緒に。「はい! デ・ポン!」。【み】

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