「おかあさんといっしょ」と「理想の家族」

速水けんたろうは「父」である。
出演者の年齢は公表されていないため確定はできないが、おそらく古今亭志ん輔師を除く4人の中で一番年長であろう。いや、年齢のせいばかりではない。彼の落ち着いた物腰、安定感のあるトーク、抜群にうまい歌。

先代の歌のおにいさん・坂田おさむは、おにいさんとしてはかなり年長だったにもかかわらず、そのキャラクタは「父」ではなく、やんちゃな「息子」であったと思う。対する歌のおねえさん・神崎ゆう子は、息子を庇護する「母」。これは歴代の歌のおねえさんの伝統だろう。番組を視聴する乳幼児は、歌のおねえさんに「母」を投影していたはずだ。なにしろ番組名からして「おかあさんといっしょ」である。番組のシンボルである歌のおねえさんが「おかあさん=母」の役割を果たしていたといえる。

しかし、茂森あゆみは母ではないと思う。
坂田が「やんちゃな息子」なら、茂森は「お転婆な娘」の役にあたるのではないだろうか。
人形劇「ドレミファどーなっつ!」の双子のプードルの姉・みどは、運動が得意(女の子のなのに!)、編み物や縫い物が嫌い(女の子なのに!)という、男女平等を描くにあたっていかにもステレオタイプなお転婆な女の子というキャラクタ設定をされている。
誰よりも高くジャンプする、歌の歌詞をしばしば間違えるなど、茂森が番組で見せるこれらの顔は、まさにお転婆な娘だ。みどと茂森の右顎の同じ場所にホクロがあるのも偶然ではないかもしれない。なにしろ、茂森と「ドレミファどーなっつ!」は、同じ年(1993年)に番組に登場しているのだから。

速水が「父」、茂森が「娘」なら、佐藤弘道は「息子」だろう。それも、坂田のような「やんちゃな息子」ではなく、しっかりものの「兄」だ。
先代の体操のおにいさん・天野勝弘はいかにも若さあふれる元気なお兄さんだったが、その前の瀬戸口清文や輪島直幸は「おにいさん」というよりも「おじさん」といった方がふさわしい風貌であった。若い歌のおにいさん、おねえさんをしっかりとサポートする頼りがいのある「叔父」である。佐藤はこの「しっかりもの」という伝統を継承しつつ、愛嬌のある童顔や剽軽な言動で「息子」の役割を担当しているように思える。つまり、「娘=茂森」の「兄」である。

そうなると松野ちかは何にあたるのか。
いかにも体育会系の松野は、普通に考えれば「後輩」、それも先輩をきちんとたてることを知っている「後輩」といいたいところだが、ここまで「家族」に見立ててきたのだから、松野にも家族の役割を当ててみたい。年齢でいうと茂森よりも上だそうだが、やはり松野は「妹」だろう。目立つ派手な姉を持つ物静かな「妹」。だが、この「妹」はおとなしくて静かなだけではない。新体操という誰もが一目おく技をもつ娘だ。

さて、ここでいったん整理すると、「父=速水」「長男=佐藤」「長女=茂森」「次女=松野」となる(ついでに「叔父=古今亭志ん輔」と加えてもいいかもしれぬ)。

「母」が不在である。

速水、茂森、佐藤は4月で6年目(松野は5年目)。
現在の「おかあさんといっしょ」の4人は、チームワークというのか、コンビネーションというのか、息がぴったり合っていて安心して見ていられる。
過去、これほど長くおにいさん、おねえさんを務めていたのは、神崎ゆう子(歌のおねえさん・6年)、田中星児(歌のおにいさん・5年)、坂田おさむ(歌のおにいさん・8年)、瀬戸口清文(体操のおにいさん・13年)といった人たちがいたが、4人揃って5年以上も続いていたことはない。それだけ現在のチームが好評なのだろう。

少々大胆に推測してみると、「母」不在である現在の「おかあさん」チームの「母」の位置に、視聴者の母親たちが自分を当てはめているのではないか。
優しくて落ち着きのある夫、元気で親孝行そうな息子、活発で美しい姉娘、おとなしいが一芸に秀でた妹娘。こんな家族に囲まれて過ごすというのは、世の母親の理想であろう。
母親たちには、速水ではなく佐藤の方が好評だそうだが、「速水と結婚したい」ということではなく、「理想の家族像」として考えてみた場合の話である。さらに、もしかしたら、番組の主な視聴者である乳幼児もまた、速水のような父、茂森と松野のような姉、佐藤のような兄を、潜在意識のうちに理想の家族として見ているかもしれない。

現在の「おかあさんといっしょ」のずば抜けた好感度、安定感は、かようなる疑似家族的な雰囲気(アットホームな、などという陳腐な表現はぜひとも避けたい)から、かもしだされるものではないだろうか。
もちろん、速水の豊かな歌唱力、画面からにじみでる暖かな人柄、茂森の美貌や元気いっぱいの表情、佐藤の愛嬌、松野の愛くるしい仕草、4人揃ってダンスがうまい(かつてこれほどまでにダンスが全員揃って上手だったことがあっただろうか!)などの要因も見逃せないのは確かだが、現在の「おかあさんといっしょ」=「理想の家族」という説、いかがなものだろうか。【み】

追記:「ドレミファ・どーなっつと茂森あゆみの登場は同じ年」と書いたのだが、実は、どーなっつの方が半年早く番組に登場していた。なんともお恥ずかしいことである。掲示板上で、徳明さんからその旨ご指摘いただいた。ありがとうございました。(1998/4/7)

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