東京映画の感想文「おゆきさん」

おゆきさん」鍛冶昇監督、倉本聰脚色、1966年。

和泉雅子が素直でお茶目でちょっぴり頑固なお手伝いさんに扮し、笠智衆演じる大学教授との交流を描いた笑いと涙の青春映画。大学教授宅に住み込みで働くおゆきは、お茶目でちょっと頑固な映画好きの少女。身寄りがないおゆきは、家中のみんなから可愛がられていた。そんなある日、おゆきはTVのクイズ番組に出場することになり…。

チャンネルNECOより

くるくる動く大きな瞳の和泉雅子は、忠津陽子とか大和和紀が描くような昭和の少女マンガのヒロインのよう。
そして、廊下を拭き掃除中に奥様に呼ばれ元気よく「ハーイ」と返事して飛んでいこうとした途端にバケツに足を引っ掛けてこぼした水に滑ってスッテンコロリとか、笠智衆の教え子が婚約者を亡くしたという話を部屋の外で立ち聞きしておんおんもらい泣きするとか、昭和少女マンガ的シーンも満載。

和泉雅子が幼い頃に両親を亡くしているのも昭和少女マンガのヒロインっぽい。
一人になってしまった和泉雅子を育てたのは伯母の武智豊子なのだが、この作品の武智豊子は純度100%の武智豊子なので観客の期待通り強烈でガミガミしているしガメついしで和泉雅子を悩ませている。

この作品の大きな魅力のひとつは当時の東京の風景が見られること。
田園調布駅、多摩川土手、宝来公園、有楽町のそごう、建ったばかりの代々木体育館など、次から次へと登場する懐かしい風景が胸を打つ。

おゆきさん1
田園調布駅前で笠智衆を待つ和泉雅子
おゆきさん2
有楽町のそごう

大学教授の笠智衆の家で働く和泉雅子の毎日を軸に、和泉雅子に惚れている松山省二、父親に結婚を反対されている松尾嘉代、笠智衆の教え子の新克利が婚約者を事故で亡くすといったエピソードが絡み合い、「学歴はないがすべての教養は映画から学んだ」と胸を張る映画マニアの和泉雅子が賞金100万円のテレビ番組「ゴールデンクイズ」に出演するシーンで映画はクライマックスに。
そう、この作品はまさかの「クイズ映画」だったのだ。

なお、番組のスポンサーはミクロゲンパスタ、司会はお懐かしや金原二郎、ゲストに女優の松原智恵子が実名で登場するという現代ではちょっと考えられない演出。
で、またこのクイズが難しいんだよ。

劇中に登場したクイズは以下の通り。
「▼」マークをクリックすると和泉雅子が答えた正解が表示されるよ!

①現在の映画はほとんど大型の時代となりました。ところで我が国で初めて大型映画・シネマスコープによって撮影・公開された映画は、何という名前の映画だったでしょうか?

答:「鳳城の花嫁」

②日本で最初に女優さんを採用して作った映画の題名と製作年度を答えてください。

答:「松の緑」(1911/明治44年)

③1918年ごろ我が国で初めて純映画劇運動を始めた団体の名前およびその主催者の名前をおっしゃってください。

答:映画芸術協会、帰山教正かえりやま のりまさ

 さあ、どうですか皆さん。日曜お昼の生放送に「カルトQ」クラスのこの難問。
ちなみに下2つがクイズらしくない文章なのは、司会者ではなく、ゲストの松原智恵子(本人)が読み上げたから。

ライトコメディというか肩のこらない清潔なファミリードラマ。
1960年代の東京の風景だけでも見る価値があると思う。

また、激怒する笠智衆、自分のことを「タタ」と娘に呼ばせている笠智衆、時折一人称が「タタ」になる笠智衆、「お背中流しましょう」と風呂に入ってきた和泉雅子に狼狽する全裸の笠智衆、和泉雅子と口論の末思わず頬を叩いてしまったものの間髪入れずに反省して謝る笠智衆など、普段あまりお目にかからない笠智衆が目白押し。笠智衆マニアにもオススメの1作。【み】

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