「カーネーション」泣く優子と怒鳴る直子と笑う聡子

糸子がオハラの看板を譲る話をする前に、優子に先を越されてしまった。

正直に言わしてもらいます。東京で店一軒流行らせられるだけの力つけて帰ってきました。そしたらそのウチはもう岸和田のこの店にはようおらんのです。ウチがやりたいことはここにおったかて半分もでけへんちゅうことはようわかってる。毎日その悔しさを我慢してここにおったかて、それは生きながら死んでるようなもんや!

言葉を叩きつけるように糸子にぶつける優子。
ついこないだ「お父ちゃん、ウチの娘達は優しいのでウチのようにバッサリ斬ったりしません」と善作の遺影に話しかけたところだったのに、結局同じようにぶった斬られてしまった。
そして、感情の高ぶった優子は、今日も顔を強ばらせて黒目をグリグリ剥いているのだった。

糸子に怒鳴られた優子は泣きながら祖母の千代にすがりつく。
一方、優子に看板を譲り損ねて“不細工”なことになってしまった糸子は安岡美容室に駆け込み、玉枝にすがりついて泣きながら愚痴るのであった。婆ちゃん世代大活躍。

儀礼的ともいえる糸子の怒りを受け流してオハラを継がずに心斎橋に店を出す許可を得た優子。
母の期待を裏切るような真似をしておきながら、しれっと「店の内装工事の職人達の柄が悪い」と糸子に泣きつく要領の良さ。
ああ、ありがたいのは母の愛。優子の代わりに糸子が巻き舌で職人達に喝を入れてくれたので、今後内装工事は順調に進む模様である。

さて、三姉妹が顔を揃えた正月の小原家。
優子の夫の悟は「この後、会社の連中とちょっとありまして」とそそくさと一人で帰ってしまう。
それを見送る千代と糸子。しかし優子は炬燵から動かない。実家で寛いでいるから横着しちゃった? それとも夫との間に何か…?

そんな私の心配をよそに優子は妹に近況を問うのである。
優子が「店一軒流行らせ」たと豪語した東京の直子の店のことだ。
よせばいいのに「売上げ悪いんけ?」とか聞いちゃうんだよ、優子ったらもう。
確かに自分が助っ人していた店なんだから状況は気になるだろう。
売上げの六割を自分の顧客で支えていたのだから辞めてからの売上げは心配かもしれない。

「まあ、ほんでもアンタ、名前だけは売れてるんやさかい、どないか頑張ってやっていきや。そのうち理解してくれる人かて、もっと増えていくやろしな」

ご説ごもっとも。言うことなすことすべて正論。
優子の「優」は「優等生」の優。そして「優越感」の「優」。
優子は間違ったことは一切言っていないのだが、その上からの物言いと言い出すタイミングの悪さが直子に火をつけてしまう。

「店のことなどもうどうでもいい」と吐き捨てるように言う直子。
「年明けに店を辞めてパリへ行く。源太も既に行っているし、今のパリを見ておきたい」のだという。
デパートでの従業員や顧客からの信頼、売上げで大きく水をあけた上、立地抜群の心斎橋の店の開店を控えて意気揚々と直子に説教をくらわせていた優子の鼻っ柱をへし折る一言である。

「何? アンタまた何わけわからへんこと言うてるんや! アンタあんなけウチに自分の力だけで店やりたいやら啖呵切っといてそのザマけ? 何がパリや! どんだけ中途半端なんや!」。

おや? 「オハラは私が継いでやるからアンタらは好きなことを思う存分やりなさい」とか言ってたのは誰だったっけ?
自分の力だけ、つまりデパートのネームバリュー抜きで心斎橋の店で自分の力を試そうとしていたのに、あれ? その店は今どうなってるんだっけ?
ま、心斎橋の店に関しては北村の商売とも絡んでいるので、優子一人を責めちゃいかんな。直子のデザインよりも優子のデザインの方がプレタポルテ向きだものね。

さて、次は直子のターン。
「姉ちゃんこそ、この店継ぐちゅうちゃあったちゃうんか! 何をほったらかして自分の店やるとか言うてんよ! しかも、あの、あの物件! あの物件な、ウチが初めに持ってきちゃあった話ちゃうんか!」。
ついにミカンの皮をぶつけ合う乱闘に突入。
その傍らで寝転がって笑いながらテレビを見ている聡子。
これは幼い頃から変わらぬスタンスだ。お見事。

悟を見送った千代と糸子が和やかに会話しながら戻ってくると、激怒のあまりドスドスと二階に上がっていく直子とすれ違う。
そして、居間にはヒイヒイ泣いている優子……と、寝転がってテレビを見ている聡子。
泉州弁で怒鳴り合うシーンになると、さすがに地元出身の直子役・川崎亜沙美に軍配が上がるよね。
新山千春は大健闘だと思うが、喧嘩になると一本調子になる感じ。
話し合いなら正論の人・優子が有利だが、罵り合いになったら青森出身の新山が岸和田仕込みの啖呵を切る川崎に勝てるわけがない…と毎度思うのであった。

要領が良さそうに見えて、実は抜けている優子。ここぞというタイミングで地雷を踏む迂闊者である。
少女時代なら「大泣きして可哀想な私をアピール」作戦も有効だろうが、もう三十代だからねえ。もう頭を撫でてくれる人は千代ぐらいしかいないと思う。
扱いにくい妹、猛獣・直子とのつきあいは長いんだから、もうそろそろ彼女をコントロールする術をマスターしてもいいんじゃなかろうか。

しかし、本当に要領のいい子というのは、姉達が大喧嘩していても我関せずでニコニコと寝転がってテレビを見ている聡子みたいな子をいうのであろう。
二人の喧嘩がヒートアップしたら黙ってテレビの音量を上げていた聡子。今日も可愛いすぎるぞ。3月に入ったらこの愛らしい聡子が42歳になってしまうのかと思うと……むうう、寂しくなっちゃうなあ。【み】

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