「篤姫」における「男勝り」の履き違え、そして理想のキャスティングを考える

大河ドラマ「篤姫」、第1回を見てどうにも腑に落ちず、原作本「新装版 天璋院篤姫」(宮尾登美子/講談社)を購入した。
そして、原作を読んでわかったこと。
原作では、「鹿児島の島津家や篤姫の実家である今和泉家では標準語を使う決まりになっている」という設定なのだった。文句をつけて悪かった。
また、篤姫の実父・今和泉安芸は、原作では身体が弱く胆力に今ひとつ欠けるというキャラクタであった。つまり、実父役の長塚京三の胃が弱そうな雰囲気は正解だったのだ。

ただし、篤姫の養育係・菊本は、原作とはかなり印象が違う。
菊本を演じる佐々木すみ江といえば、嫁をいびる姑とか厳しい女中頭とか怖いおばさん役のイメージが強い。そういえば、今、チバテレビで再放送している「大奥」(1983年版)でも姉小路に扮して、乙羽信子や桜田淳子にネチネチと意地悪したりヒステリックに叫んだりしていたぞ。
しかし、原作の菊本は、そういうキャラクタではないのだ。篤姫を盲目的に溺愛する優しい老女。いつも篤姫に「姫は立派だ」「将来素晴らしいお婿様が現れる」と言い続けたという、まるで「坊ちゃん」のばあやの清のような人物なのだった。

しかし、原作とは違って、このドラマでの佐々木すみ江の菊本は厳しい。なにかというと大きな声で叱りつけるのだ。
佐々木すみ江は、むしろこの後に登場する幾島の方がしっくりくる。かつて京都の近衛家に仕えていて、篤姫の大奥入りを前に島津家に教育係として招かれる女性である。
原作では、容貌魁偉でいかつく、大奥で篤姫が恥をかかぬようスパルタ式に躾ける厳しい老女という設定。あまりの指導の厳しさに篤姫は幾島に反発する一方で、優しく甘やかしてくれていた菊本を懐かしむ。
今回、幾島を演じるのは松坂慶子。大河ドラマのオフィシャルページによれば、「篤姫を、江戸の社交界にデビューさせるために『姫』としての教育をたたきこむ」とあるので、原作通りビシビシしごいていくのだろうが、松坂慶子のようなふっくらと華やかな女優よりも、もっと険のあるイメージの女優が合っているのではないかと思う。

さて、もうひとつ原作を読んで違和感を覚えたのが、娘時代の篤姫のキャラクタ設定である。
身体の弱い兄達に比べ、身体が大きくて見栄えが良い。押し出しがよく、肝も据わっている。この時代の姫にしては珍しく、非常に勉強熱心でもある。家族や養育係の菊本から「篤姫が男だったら」と言われて育った……という、いわゆる「男勝り」な姫なのだが、ドラマではそれを表現するためか、篤姫は元気いっぱいのお転婆姫として描かれている。無論、勉学に興味を持ったり武士と農民の暮らしの格差に心を痛めたりというシーンがあったりもするが、それよりも印象に残るのはキャンキャンとはしゃぐ子犬のような演技だ。
お侠な町娘役ならいざ知らず、島津の殿様が一目見て将軍の御台所候補として養女にしたくなるような立派なお姫様には見えないのだった。

この後篤姫は、13代将軍家定の御台所になり、家定の死後は14代将軍慶福の御台所に皇女和宮を迎えるという大事業を経て、大政奉還まで大奥を束ねていくことになる。
篤姫役の宮崎あおいは、御台所として大奥入りするまでは年齢やイメージ的にもなんとかなりそうだが、その先が問題だ。この調子で大丈夫なのだろうか。
なにからなにまで原作通りにドラマ化する必要もないのだろうが、もう少し原作のイメージに近い体格が良くて賢そうで若くても貫禄のある女優をキャスティングするわけにはいかなかったんだろうか。宮崎あおいでは可憐すぎる。

じゃあ、誰がいいかというと、これがまた難しい。
関西テレビ制作の「大奥」(1968年版)では三田佳子→北城眞紀子、同じく関西テレビ制作「大奥」(1983年版)では小林麻美→三林京子、フジテレビ制作の「大奥」(2003年版)では菅野美穂が演じている。おそらく1968年版も1983年版も姫〜御台所時代と御台所〜天璋院時代とで女優が交代していると思われる。いずれも未見なので憶測に過ぎないのだが、たぶん娘時代はひたすら可憐で御台所時代は嫁いびりに励む意地悪な姑という感じだったのではなかろうか。

2003年版は時々録画に失敗しつつも一応最初から最後まで見た。御台所といえば公家から迎えるのが慣例だったのに、薩摩なまりのある質実剛健な武家育ちの姫が御台所として大奥入り。華やかな柔らか物を着て珍しい菓子を食べ贅を尽くした調度品に囲まれて暮らす大奥の女達にとっては突然入り込んだ異分子である。朴訥で一本気で気の強い篤子を菅野美穂が品良く好演した。

今、着物が似合って押し出しが良くて知性が感じられて1年間の長丁場を健康やスキャンダルの心配なく過ごすことができて、しかも視聴率の期待できそうな10代から30代までを演じられる女優といったら誰だ。
まさか、フジテレビで篤姫を演じた菅野美穂をそのまま大河ドラマの主役として連れてくるわけにもいかないだろう。上戸彩では小柄すぎ、小池栄子ではバラエティ色が強すぎる。私の好みではないけれど広末涼子はどうか。あるいは身体が小さいのが難だが安達祐実の演技力や年齢不詳感も捨てがたい。

この際、実年齢には目をつぶり、思いきって秋吉久美子なんてどうよ。
立派な体格というのとは違うかもしれないけれど、若い頃に映画で披露した豊かなバストが今も印象深い。知的なイメージがあるし、いまだに瑞々しいイメージを保っている。
そうなれば秋吉とのバランスをとるために、還暦過ぎの吉永小百合とか80歳に手が届きそうな八千草薫とか80歳オーバーの森光子とか、綺羅星の如きベテラン女優陣で大奥を彩ることができる。まわりを若々しい年配の女優でかためれば、秋吉久美子が20代の御台所を演じても違和感なさそうな気がする。他にも、岩下志麻、三田佳子、桃井かおり、風吹ジュン、高橋恵子、原田美枝子…などなど、実力派の美人女優が選び放題だ。

フレッシュな若手女優の成長を見守るのも悪くないが、熟練の中高年女優達が白く顔を塗って豪華絢爛な衣装で競演する大河ドラマもたまにはいいではないか。この際、樹木希林も藤山直美も白石加代子も李麗仙もみんな呼んでこい。とびきり豪華な大奥のドラマが出来るぞ。【み】

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