「AIでよみがえる美空ひばり」可能性をおおいに感じるけどもう一息。

「NHKスペシャル AIでよみがえる美空ひばり」(2019年9月29日/NHK総合)。

AIひばりのために新曲をプロデュースしたのは、生前最後の曲「川の流れのように」を手がけた秋元康氏。そして過去の膨大な映像を解析しながら、歌唱中の目や口の動きを抽出し、4K・3Dホログラム映像で等身大の美空ひばりを出現させる。(「NHKスペシャル AIでよみがえる美空ひばり」公式サイトより)

観客を入れたNHKのCT-101スタジオで、秋元康プロデュースの新曲を唄う美空ひばりの4K・3Dホログラム映像を披露するという企画。
衣装は東京ドーム公演の羽つきのドレスなどをデザインした森英恵、生前長らくひばりを担当していたメイクさんが今回の新曲のイメージでヘアスタイルを考案、唄っている時の動きはひばりに憧れプロの歌手になり生前親交も深かったという天童よしみが担当。

美空ひばりの歌唱のキモは、尾籠な表現で申し訳ないが「喉の奥で痰を切りながらずり上げるように高音に移行する」という技巧だと私は思っているので、それが再現できていない現在の“AIひばり”では満足できない。
また、「感情が高まると歌声が荒々しくなる」みたいな唄い癖を再現するのは難しいんだなと思った。

それと気になったのがホログラムの顔。
病気で痩せていた東京ドームの映像を元に作ったのだろうけど、もう少し健康的なひばりの顔が見たかったな。

森英恵がドレスの試着に使ったのは、ひばりと背格好の似たモデルと紹介されていたが、モデルさんスタイル良すぎ。今どきの若い人は手足が長いんだもの。
仮に身長体重が同じだとしても、若い女性と中高年の女性は肉の付き方が違うのは言うまでもないこと。どうせ再現するのなら手足の長さ控えめの中年女性を元に、リアルなニューひばりドレスを作るべきだと思ったよ。

番組の最後でいよいよ新曲「あれから」が披露される。
AIひばりを見ながら、最前列で涙する加藤和也ち天童よしみ。
でも私は泣けなかったなあ。彼らはひばりとのたくさんの思い出が脳裏によぎって思わず泣いてしまったのだろうけど。

天童よしみにモーションキャプチャを装着して振付(動き)を決めるのなら、こぶしやうなりなどの歌の特徴をモノマネ歌手にアドバイスしてもらったっていいはずだよね。それをせずにお手本の音声をコンピュータに学習させるというスタイルでやってきたのだから、動きだってお手本映像をコンピュータに解析させて振付を考えてほしかった。

こんな「続・川の流れのように」みたいな曲ではなく、もっとアップテンポな曲ならひばりの動きも再現しやすかったと思う。
冒頭にチョロっと流れたAIひばり版「Let It Go~ありのままで~」の方がずっと面白かったよねえ。
とはいえ、この企画、「秋元康の出世作『川の流れのように』を彷彿とさせる新曲を蘇った美空ひばりに唄わせる」がメインテーマみたいだったから仕方ないのだろう。絵に描いたような大人の事情。

「倍音」の話は今更感。
倍音の例としてホーミーを例に上げるのも既視感が凄い。平成か。
そういえば、最近はあまり耳にしなくなったけど「1/fゆらぎ」ブームはなぜ消えた? 確か美空ひばりも1/fゆらぎの声と言われていたような記憶がある。

加藤和也秘蔵のひばりの肉声カセットテープ、もう何度も何度もテレビで見た。
あたかも「新発見」「ありがたい」みたいに見える扱いはよろしくない。中高年はみんな覚えてるよね。

ていうか、2005年の映画「オペレッタ狸御殿」でCG美空ひばりを登場させてたじゃん。
ひばりの肉声再現もとっくの昔に行われてるんだよね。

早逝した伝説的な歌手で、今も人気が高く、歌い方・喋り方の癖が強くて再現しやすそうだから、こういうプロジェクトが現実化したんだろうけど、あの荒々しくも繊細なひばりの複雑で独特な歌唱法を完全再現するにはもう一歩の工夫が必要だと感じた。
予算も人材も、国を上げて取り組むくらいの気概がなければ、日本一の天才歌手、美空ひばりを現代に蘇らせるのは難しいと思うけど、面白い企画なのでどんどん蘇らせてほしい。
笠置シズ子と美空ひばりの元気いっぱいのブギの競演とか見たいもの。
がんばれNHK。【み】

[memo title=”cast”]出演:秋元康、天童よしみ、森英恵
ナレーター:三浦大知[/memo]

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